二戸のよいものめぐり
岩手・二戸。新幹線が止まるのに今も昔も決して目立ってはいないけれど、浄法寺塗、竹細工、雑穀文化など古くからあるよいものがたくさんあってずっと気になっていました。
「二戸に行きたいです」とわがままをいい、一緒にしごとをしてきた県女子さんとプチドライブ。お互いおやすみをとって、いわてのよいものに触れる心地良い時間。
まずは浄法寺塗勢ぞろいの「滴生舎」へ。
国産漆のうちの約6割を生産している二戸・浄法寺。霊山・天台寺で使われ、僧から庶民のうつわとして伝わり、生産技術が発達したとのこと。
「滴生舎」は天台寺のふもとにあり、二戸・岩手の作家さんだけでなく浄法寺の漆を使う作家さんのものを集めて展示・販売しています。
店内に工房もあり、若い職人さんが作っているのがガラス越しに見学できたり、漆絵付体験教室も開くことで「浄法寺塗」の文化を伝えている貴重な場所です。
質問攻めの私にお店のひとがひとつひとつ丁寧に教えてくれます。
「木地師」により木でつくった型をうるし職人が購入、3か月かけて何度も何度も塗り重ねて作り上げること。刷毛は人の髪の毛。
日常で使っていくうちに徐々にはがれてきて、色合いが変わり、風合いが出てきます。これが魅力。
ずっと欲しかった浄法寺塗。散々見尽くして、最初に目があった中側の漆も国産の汁椀を購入。
勇気のいるお買い物ですが、色合い、風合いの変化を楽しみながら一生使いたいです。
漆は剥がれたら、このお店に送ればまた塗ってくれるそう。また塗ってもらえるよう長生きしたい。。
二戸のもうひとつの代表的な工芸「プラム工芸」。
硬くて木肌が柔らかなオノオレ樺(カンバ)を加工した生活道具を製作する工房です。
知名度が高い割に地味な佇まい。そして店内の展示も相当素朴なのですが、全国の百貨店から注文が殺到する怖れ多い場所です。
木工カトラリーはひとつひとつのラインが美しく、滑らかで手触りが心地よくて驚きました、木工ってあまり興味なかったのですが、日常に存在したら日々がほんわか、幸せになりそう。そんな世界がぴったりな新婚&妊婦の県女子さんは朝食が似合いそうなプレートを買ってました。
そしてメインの「米田工房 そばえ庵」へ。
素朴な畑の丘の上にあります。
米田カヨさんという二戸の食文化を伝える方の店。岩手県が郷土食を伝える人を認定する「食の匠」でもあります。
この地域は盆地の寒暖の差があり、またコメや小麦が育たないことからあわやひえなどの雑穀、蕎麦の実の栽培が盛んになりました。
そんなこの土地ならではの食文化を、てづくりのごはんの提供とお話、さらには体験を通して伝えていくという、ただのお蕎麦やさんではない文化伝承の場です。
席に着くと「ようこそいらっしゃいました」とカヨさんが笑顔で迎えてくれました。
なんとも素敵な笑顔に安らぎます。
私たちのところだけでなく、他のお客様が着くとテーブルにいらして、ようこそ、と話しかけます。お客様と会話しながら提供するごはんの背景の文化をお話していきます。
この伝え方が決して一辺倒ではなくおしつけがましくなく、お客様に合わせて寄り添うようにされているのが素敵です。柔らかであったかでみんなカヨさんのファンになってしまいそう。
食事はすべてが手づくりで丁寧に作られているのがわかります。雑穀、おそばが入った「田舎セット」を頼みました。
名物の十割そばは、そば粉やつゆ、しょうゆまで自家製。
このおそばに魅了された人が、東京から二戸まで通って蕎麦修行したそうです。カヨさんとおそばに魅了されたお弟子さん、多数いるそう。
店内の半分がそば打ち教室になっていて、体験でも食文化を伝えています。
「やなぎばっと」。
そば粉を水で溶かした「はっと」(山梨でいう“ほうとう”)を柳の形にするのは、柳が春一番で芽吹き、最後に折れることから「丈夫で長生きして」という願いを込めたものだそう。
手作り感がつたわる、優しい味。
「へっちょこだんご」。
うつわは浄法寺塗です。
「へっちょ」は“苦労”の意味があるそうです。「へっちょはがせた~」とよくいうそうですが、「苦労させた~ご苦労様~」の意味だそうです。
「へっちょこだんご」は一連の農作業を終え、収穫が終わったときに「おつかれさま」という気持ちを込めて集落の農家みんなで食べた御汁粉。
だんごの素材はたかきび。あんこも甘ったるくなく、小豆自体のおいしさが生かされています。
さらには、この地域の特産の「やまぶとう」とマヨネーズと梅を和えたソースが美しい青菜や雑穀もいちいち唸りながら食しました。
岩手は素材に恵まれていて、海の幸もや山の幸もいちいち美味しいのですが
2人の結論は「手の込んだ、思いのつまった土地に根差した食が一番のごちそう」です。
どんな高価な食材よりも贅沢な食事。
土地に根差した、その土地だからこそ生まれるものづくりと生活。地味で素朴ではあるけれど、確かに似ている文化はあるかもしれないけれど、そこでしか育まれないもの、そこにしかない「たからもの」がそれぞれの土地にあります。
ということを二戸は改めて教えてくれた場所。
宝物さがしときちんと伝えること、地道にやっていきます。
異次元だらけの花巻。童話と温泉とドイツカフェ
一年通った岩手。沿岸部は何度も訪れているのですが、内陸部はわかっていないことが消化不良。
そこで休日を利用して花巻に。
花巻周辺は童話の世界。山の上を銀河鉄道の列車が上っていくよう、林の中を歩いていると葉っぱたちが会話しているよう。宮沢賢治が想像力をかきたてられ、さらに農業の新しいコミューンを作ろうとしたのがわかる独特な土地柄です。
そしてメインは温泉。台温泉など気になるところは色々あるけれど、花巻南温泉峡の大沢温泉を選びました。渓流沿いの露天風呂が有名すぎて、20年位ずっと恋焦がれていたのです。宮沢賢治も花巻農学校の生徒を連れて通ったことで知られています。
泊まったのは「大沢温泉湯治部」。
http://www.oosawaonsen.com/touji/
大沢温泉は「山水閣」「菊水館」「湯治部」と異なる趣の3つの館があり、私は1泊2食付の「菊水館」を予約したはずが、現地に着くととれてないという。
湯治部が一室だけ空いているとのことで仕方なく選んだはずが、大正解。
築200数十年の建物はほれぼれとしてしまう風情。そして湯治場というとなんとな暗い印象があるけれど、ここは全くはっぴを着たスタッフが「帳場」でてきぱきと働き、廊下も情緒ありかつきれいに掃除してあるのがわかります。
日帰り客用の待合室もなかなかの風情。
お部屋は湯治場だけあってこんなコンロがあり一瞬ひるみますが、清潔感がありこたつが和みます。
お支払も湯治部だけあって独特。部屋代がマスト、お布団や浴衣、ストーブを借りると、どんどん加算されていく積み上げ算。
居酒屋風のお食事どころもあって、メニューも豊富、安くて美味しい。
炊事場もあるので長期滞在はここを利用すればリーズナブル。学生はここで作るのも楽しいかも。
そして温泉。入れるお風呂は計5つもあります。名物渓流沿いの混浴露天風呂「大沢の湯」をはじめ、春~秋には窓を開け放しで半露天となる「豊沢の湯」、女性専用露天風呂、檜の香りが和む内風呂「南部の湯」、源泉かけ流しタイル張りのレトロな内風呂「薬師の湯」。
どれも風合いが違い、湯めぐりが楽しいです。
そしてこの温泉の最大の特徴は、お湯に入った途端、老いも若きも「きもちいい~」と思わず叫んでいるのです!
私もこんなに気持ちよいお湯は早々ないです。
両手をこするとぬるっとする、とってもなめらかな、完全美肌の湯。湯治のお湯だけあって、底からあたたまる。保湿性たっぷり。
そしてこの解放感。
露天風呂、全国に数あるけれど、そして色々入ってきたつもりでいたけれど、こんな景色もお湯もホンモノ感を感じた場所は初めてかもしれません。これぞ求めていた「THE日本の露天風呂」。
名物の渓流露天風呂は20時~21時女性専用で露天風呂の入り口に女性の門番もいて、お客様の気持ちに寄り添っているのがうかがえました。
実は大沢温泉、あまりにも有名すぎて、ひねくれものの私はあまり期待していなかったのです。お客様がたくさんくるから、きっとサービスや質も景色も実際はそれほどでもないのだろう・・と。
しかしここはホンモノです。お湯も風景も心地よさも。湯治部なのでもちろんサービスなんてないのですが、宿の方が宿もお客様も大切にしているのがわかります。
たとえば帳場にいた男性が朝、廊下や階段をさっさと履いて掃除をしている。きもちのよい挨拶をする。少人数でまわしているのがわかりましたがみんな誇りをもち責任もってやっている感じです。
朝もゆっくり入りました。
十分ゆっくりしてあったまって、一週間たった今でも体調がよいです。
わざわざ新幹線に乗って来る価値がある場所です。家族も連れてきたい。
弱ったら、ここに来よう。湯治場はここで決まりになりました。。
大沢温泉にはもうひとつ楽しみが。
大沢温泉から歩いて5分位のところに、ひっそりとある、
完全予約制のドイツカフェ「バックシュトゥーベ」。http://www.backstube-hanamaki.com/
ハイデルベルグ出身のご主人と岩手出身の奥さまが22年ほど前から2人でやっています。
8席ほどの、おうちのような小さなお店。ランチもディナーもやっているそうです。
ご主人、陶芸家で笠間や京都にもいたとのこと。今はケーキが大人気で、一度食べたお客様が忘れられない、と全国から注文が殺到しているとのこと。
実際一度食べたら忘れられないです。ドイツのケーキ、そんな食べたことないですが、東京でもこんな美味しいものはないと思います。
卵、バター、粉、塩、すべての材料にこだわって丁寧に丁寧につくったてづくりケーキ。
本格的、かつ家庭的な優しい味でほっこり、日差しが降り注ぐ小さな空間にいると昔読んだ絵本の中にいるような気持ちに。
チョココーティングに入れるベリーなどはお庭で育てているそうです。
宮沢賢治の童話の世界、疲れが取れる温泉、ヨーロッパのおとぎ話の中に入りドイツカフェ。。花巻は異空間だらけでした。
愛される盛岡の宿
町全体がしっとりしていて情緒的、何度訪れても飽きることがない盛岡。
どっしりと男らしい岩手山、情緒あふれ色気さえある北上川、中津川、古き良きたてものがまちなかに点在していて、歩いていると自分が映画の中に入ったような気分になります。
刻んできた歴史とお店の思いが独特な空気感となって居心地よい喫茶店も多く存在し、さんぽが楽しい。
もう仕事は終わってしまったのですが、できることなら通いたい。。
そんな自分をかきたてるような「定宿」をみつけました。というか地元女子に教えていただきすっかり気に入ってしまいました。
「熊ヶ井旅館」
創業50年。その頃は盛岡にも情緒たっぷりたくさんの和風な旅館があったそうですが、東北新幹線が通ってからビジネスユースのホテルが乱立、今では旅館は13軒しか残っていないそうです。
入ると一枚板の廊下にしびれます。
お部屋は清潔できれい。お風呂も洗面所も綺麗に掃除してあって使い心地がよいです。
そしてこのお宿はそこかしこに私の大好きな「民藝調」のものが飾られていること。凧、お面、、よ~く見ると外国ものも。
(といいつつアップの写真がない)
民藝館にいくと日本のよいものだけではなく、柳宗悦などの民藝家が世界各地で見つけたよいものの収蔵館があるのですが、そんな感じでした。
「民藝がお好きなんですか?」と聞くと、「自然にそうなったんです」と品があって笑顔の素敵なおかみさん。
ご主人が各地で買ってきた凧やお面、お義母さまが好きだった各地のうつわをずっと50年間飾っていたらこういう風合いがでてきたそうです。
さらにすごいのは、お客様が「この宿にはこれが似合うと思って」と次々におみやげをもってくること。海外のものも多数。外国人のリピーターもしかり。ヨーロッパ、南米、アジア。。それを品良く並べています。
日本の良さがわかるお客様にずっと愛されてきた形がつくりだす空間。
しかし最近の若い子は「お面こわい、気持ち悪い」とかネットに書く人もいるとのこと。。
この宿は、ありのままの日本の良さがわかる、好きな人が泊まる場所。
「自然になった民藝館!盛岡の町にはこんなお宿が似合っている。ずっと続けてくださいね!」といってしまいました。
1Fのこの空間は「熊ヶ井食堂」という夜は飲み屋さんになります。
ベアレンビールはじめ岩手のお酒せいぞろい。旅人には嬉しい。
元おかあさまのお部屋を個室にしています。この感じ、ほっとする。。隠れ家的に知事さんとかがお使いになるそうです。
そしてひとなつっこい番犬「ごんた」。3代目だそうです。癒される、たまらない。この犬に会うためにだけでも盛岡いきたい。。
素泊まり5000円。でも泊まるだけではもつたいない。次はここで夕食&飲んでゆっくりしよう。また来よう。