粋と色気と力強さの「平成中村座」
昨日千穐楽になってしまいましたが、
先日「平成中村座」に行ってまいりました。
歌舞伎にはとても興味があるのに、なかなか身近になっていない世界。
あまり知らない私がとやかく言えたギリではありませんが、
平成中村座、見事でした。
魅せる、魅せる、魅せるの4時間半。
歌舞伎知識ゼロの私でも、雰囲気、音、お芝居、衣装、所作、役者の凄みに圧倒し、飽きることなく酔いしれた時間でした。
亡き勘三郎さんの思いを実現した平成中村座。場所も中村座にゆかりのある浅草、浅草寺境内の中に作られています。
そんな経緯を知らずとも、空間、役者さん、スタッフ含め全体が「勘三郎さんの思いを受け継いで、素晴らしいものにしていく」という強い意気込み、魂の叫びのようなものを感じました。
それを勘三郎があたたかく見守っているようでもあります。
全体が凛としていて、緊張感もあり、でも芝居小屋ならではのあったかい、気軽な感じがするのです。まさに「粋」な世界です。
入ると入口前に五軒長屋があります。江戸のかんざしや焼き物、お土産にいい浅草のお菓子などが売っています。
そしてこの佇まい。期間限定の仮設の芝居小屋とは思えません。
勘三郎さんが見守っていることを示すように隠れミッキーならぬ「隠れ勘三郎の目」が随所に施されてるそうで、中村座ファンはそれを探すのも楽しいとか。
中に入ると、思わずわぁっと声を上げてしまいました。
芝居小屋で歌舞伎を見ることが長年の夢だった私。そこには洗練された、江戸の芝居小屋の世界があったのです。
前方な御座の上に座椅子の席、後方が長椅子に腰掛ける席です。ご用意いただいたのは花道にも舞台にも近い前方の席でした。
長時間座るのでカジュアルな格好で、とのことでしたが、お着物で来てる方もたくさんいました。
演目は
「妹背山婦女庭訓」
→旦那様を愛したお三輪の執念
「高杯」
→春の宴。下駄のタップが見事。
「幡随長兵衛」
→町奴の頭領長兵衛と旗本のハナシ。
私のウットリどころは大きく4つ。完全初心者の視点です。
♩♩♩
【音楽】
演目や役者によって変わる三味線や体を乗り出すように歌う長唄に、酔いしれつつも、
黒暖簾に隠れてお姿が見えない、伴奏や擬音をかもし出す「下座音楽」に色気を感じました。
「見えない」のが逆に音が気になり、ひきこまれます。
また見得の切りや足音を表現する「ツケ」もいいなぁと。空間をぎゅっと引き締め、場面場面を印象づけます。
この木の音、というのは日本人には心地よいものです。
幕が始まることを知らせる拍子木も、幕前の時間によって鳴り方が違い、それで演者が準備をするのだそうです。
【所作】
歌舞伎の一番の楽しみは所作です。座る際、立つ時、また女方の仕草や手の使い方、何もかもにウットリします。
今回「幡随長兵衛」で、町奴の頭領である長兵衛が敵の水野十郎兵衛の屋敷に出向くときに羽織袴を着るのですが、妻役の中村七之助が 補助しながら、長兵衛役の中村橋之助が舞台の真ん中で堂々と着るシーンが。長時間、無音。乱れることのないリアルな着付けに、唸りました。
【役者さん】
ご子息はやはり華があり、実力もずば抜けているのですね。
【舞台と衣装】
歌舞伎色の色合いと鮮やかさは他では決して見れない魅力です。
舞台の、きっと意味のあるだろう、屋敷の壁や色模様にウットリ。
それに春の宴の場面である「高杯」では
最後に舞台の奥が開き、外と同化。夜の浅草の景色に桜吹雪が舞い散る仕掛けも。また女方の衣装も見事です。今回舞台に近い席だったので、踊っているときに着物の裏地もよく見えました。裏地のほうが美しく、惹きつけられます。
これが和の良さ。この色の重ね方や、中に鮮やかな色や模様を持ってくる日本の美徳をこの鑑賞で改めて感じとりました。
♩♩♩
歌舞伎鑑賞は、ちょっと敷居が高いし、結構なお値段もするし敬遠しがちです。私も「ハマると金銭的にまずいなぁ」と意識的に遠ざけていましたが
今回平成中村座を鑑賞し、もっと若い頃から無理してでも通っておけばよかった、ととても後悔しました。
そこには日本、江戸の魅力がたくさん詰まっていて得るものが大きいからです。
そして平成中村座。
勘三郎さんのスピリッツがそのまま、もしかしたら大きくなって、継続しているように感じました。「人が亡くなって残るものはその人がしてきたことではなく、与えたものだ」という言葉を思い出しました。
平成中村座のおかけで歌舞伎に目覚めてしまったこと間違いなし。これからは色々工夫して、学びに愉しみにいこうと思います。
▪️平成中村座