レトローカル旅

レトロに出会い、地域と繋がる、最高のひとり旅

靴を脱いで上がる美術館

浜松の短い滞在で次に向かったのは、秋野不矩美術館。

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私が「美術館がこうだったらといいのに」と思っている「靴を脱いで上がって、座って観る」を実現している美術館。藤森照信氏の設計。

しかし当日は展示会の隙間で閉鎖中。また来よう、と諦めていたのですが、染物屋さんにも勧められ、建築だけでも見に行くことにしました。

浜松といえども旧天竜市、電車とタクシーを乗り継いで1時間弱。結構根性要ります。

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「今から見に行きます、入口だけでも見ることはできますか?」と一報いれたら、館長さんが待っていて説明してくださり、そして結果的には閉鎖中の展示室をガラガラとあけてくださり、中も見せてくれました。

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建物は二俣町を見下ろす高台にそびえたっています。独特の木の重なりは天竜杉。建物に辿り着くまでの動線も、人々が自然と一体になるような設計をしているそうです。

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秋野不矩は二俣町で生まれた日本画家。54歳でインドの大学客員教授として赴任、以来インドに魅せられ、インドの風景や寺院をモチーフにした絵が多くなったそうです。

個人的にはこの後期の作品のほうが断然惹かれます。柔らかで暖かい色合い。

この建物は、秋野さん自ら藤森さんに建築を依頼。藤森さんが秋野さんの絵をみて、「この汚れのない絵は土足で見てはいけない」と市の反対を押し切って「裸足の美術館」を平成10年4月にオープンしたそうです。

中に入ったとたん、素敵なお家に来たよう。漆喰の壁が落ち着きます。

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靴を脱いで上がるのでこんな管理が必要だそうです・・・

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展示室は2つ。

まず、藤のござに座ってみる展示室。縦に長い部屋で左右の絵を行きと帰りに見る、という構成です。

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絵も座ってみる高さに飾られてあります。漆喰の白い壁が絵をいっそう引き立たせています。

2つめの展示室はこの奥にあり

なんと大理石を散りばめた床に座ってみる部屋。

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こちらには主に、インドの風景の大きな絵が飾られていました。

いつまでもいつまでもずっとぼおっと絵をみていたくなる空間です。

この白い空間が妙に落ち着いて、でもちょっと異国情緒もあり、そして絵が優しいからでしょうか、なんだか泣きたくなりました。そんな清らかな空間で、藤森さんの「土足で見てはいけない」という思いが伝わってきました。

こんな空間にいたら、じっくり絵について、そしてそこから思うことについて静かに会話したい気持ちにもなります。

大声をださなければ会話は大丈夫とのこと。これぞいいなあと思う美術館です。

絵を引き立たせ、かつ訪れた人を異次元に連れて行くような建築と空間に、建築美とはこういうものなのだと、感動しました。

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外にでると、ゆっくり二俣の街並みが一望できるスペースもあります。

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もともとは材木で栄えた街。宿場町としても役割を担ったそうです。瓦屋根も多く歴史を感じさせる落ち着いた街並み。本田宗一郎の出身地でもあります。こんな小さな街をゆっくり散歩するのもいいなと思いました。

古い街並みにちょっと素敵なコーヒー豆屋さんもありました。

浜松からのアクセスとは異なりますが、歩いて15分位のところに天竜鉄道の天竜二俣駅とあります。

美術館までは川沿いを歩いていけば、散策がてら、それほど苦になりません。 

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裸足になって絵を見ることで、心も裸足になれるような美術館。自然や街と一体になった佇まいの美術館。

アクセスはちょっと不便だけれど、わざわざここを目的として行き、ここでゆっくり過ごす休日は、溜まっているものがふっとぬけて、少し何かが変わるかも。

▪️秋野不矩美術館

http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/maps/t-fukuartmuse.htm